夜勤って、ホラーだなって本気で思う瞬間がある。幽霊とかお化けの話じゃなくて、もっと現実的な意味で。
うちの病棟、建物が古くて、蛍光灯もちょっと薄暗い。廊下を歩いてると、リアルに廃病院みたいな雰囲気になる時がある。不穏な患者さんのか細い声が聞こえてきたり、急に笑い出す声が響いたり。「小さい男の子がベッドに乗ったり降りたりしてる」って訴えてくる患者さんが、時間差でナースコールを鳴らしてくることもある。誰も乗ってないはずのエレベーターが、夜中に突然上の階まで上がってきて、扉が開いたりもする。もう何年もこの病棟にいて、いい加減慣れてるはずなのに、毎回ちょっとゾワッとする。むしろ慣れてる分、次に何が来るかわかってる怖さもある。
でも、本当に一番怖いのはそこじゃない。
珍しく不穏な患者さんもいなくて、物音もしなくて、病棟全体が妙に静かな夜がある。そういう時に限って、突然ナースコールが鳴る。その瞬間、心臓が止まりそうになる。不穏な声も物音も、正体がわかってればまだ怖くない。何もない静けさの中で急に鳴る音の方が、よっぽど心臓に悪い。静かな夜ほど、逆に身構えてなきゃいけないんだなって、毎回思い知らされる。
うちの病棟はわりと落ち着いてて、モニターをつけてる患者さんも少ない。だから急変に気づくきっかけって、意外と地味だったりする。オムツ交換で部屋を回ってる時とか、巡視で布団をかけ直そうとした時とか。何かが起きそうな空気を察知してじゃなくて、いつもの何気ない作業の途中で、ふと様子がおかしいことに気づく。身構えてる時じゃなくて、気を抜いてるつもりの時に限って、それは起きる。だから結局、完全に気を抜ける瞬間なんて夜勤中にはないんだよなって、あとから気づく。
何かある時は、正直そこまで怖くない。気を張ってるし、頭も体もちゃんと動く。マニュアル通りというか、体が勝手に動いてくれる感じ。むしろ怖いのは、何もなくて、静かで、平和に見える時間の方。その落差が一番くる。ホラー映画も、一番怖いのは静かなシーンだって言うけど、夜勤もまさにそれ。
それでも毎回、蛍光灯の下を歩いて、物音の正体を確かめに行って、鳴ったナースコールに向かう。エレベーターが勝手に開いても、見なかったことにしてそのまま巡視を続ける。ホラーだなんだ言いながら、結局ちゃんと現場に戻ってるあたり、我ながら図太いんだと思う。夜勤明けにその話を同僚として、「あるある」で笑い合えるうちは、まだ大丈夫なんだと思う。今夜も、静かすぎる病棟に、ちょっとだけ身構えながら向かう。
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